Webサイトを制作する際、私たちはまずクライアントに対してさまざまなヒアリングを行います。
このステップを軽視することなく丁寧に進めることで、Webサイトの完成度や目的達成の度合いが大きく変わってきます。
では、なぜヒアリングがこれほど重要なのでしょうか?
また、そもそもWebサイトとはどのような役割を果たすものなのでしょうか?
そのうえでWebサイト制作に必要なヒアリングについてまとめていきます。
そもそもWebサイトとは?
Webサイトとは、インターネット上に公開され、企業や個人が情報を発信するためのものです。
しかし単なる情報提供の場ではなく、企業とエンドユーザーをつなぐ「接点」であり、企業の顔とも言える重要な存在です。
例えば、ある製品の購入やサービスの利用を検討しているユーザーは、最初にインターネットで検索を行い、Webサイトを訪れることが一般的です。
その際にユーザーが知りたい情報が適切に提供され、企業への信頼感が得られるかどうかが、次のアクション(購入や問い合わせなど)につながる鍵になります。
このように、Webサイトは「情報を届けるだけでなく、企業の魅力や信頼性を伝える役割」を担っています。
ヒアリングが必要な理由
ヒアリングを省略した場合、次のような問題が起こる可能性があります。
※ユーザー:サイトを閲覧する人。
※お客様(クライアント):サイト作成を依頼している人。
①方向性のズレたサイトになる
目的やターゲットに合わず、期待していた成果を得られないサイトになる
【例】
・高級ブランドの商品を扱うサイトでカジュアルなデザインを採用し、ブランドイメージが損なわれた
・地域密着型のサービス業者なのに、全国向けの情報ばかりを掲載してしまった
②ユーザーに響かない情報やデザインになる
エンドユーザーのニーズを満たさず、サイトが使われなくなる
【例】
・ECサイトで主要な購入層がシニアなのに、文字が小さすぎて読みにくくなっていた
・観光施設のサイトでアクセス情報を重視する必要があったのに、地図が分かりにくい場所に配置されていた
③余計なコストや時間がかかる
後から修正が発生し、予算超過や納期遅延を招く
お客様は本業をしながらサイト制作にかかわるため時間は限られています。そのなかで何度も確認や手戻りが発生するとストレスになってしまいます。
【例】
・初期の要件定義が不十分で、再設計に時間を費やすことに
・サイト公開後にターゲット層から不評で、一からやり直しになった
ヒアリングが生むメリット
一方で、しっかりとヒアリングを行った場合、次のようなメリットがあります。
①目的に合ったサイトを作れる
ビジネス目標に直結した成果を得られるサイトができる
【例】
・学習塾の問い合わせを増やすため、無料体験申し込みフォームをわかりやすく設置
・サービス業のサイトでクチコミを目立たせ、顧客信頼を向上させた
②ユーザー満足度が高いサイトになる
エンドユーザーに好まれ、利用されるサイトが完成する
【例】
・病院のサイトで「診療科ごとに分かれた簡単なナビゲーション」を導入し、患者からの評判が良かった
・フリーランス向けサービスのサイトで、使いやすい料金シミュレーターを作成し、新規会員数が増加
③効率的なプロジェクト進行が可能
無駄な手戻りがなく、スムーズに制作が進む
【例】
・初期ヒアリングで必要機能を網羅し、スケジュール内での完成が実現
・デザインと開発チームの連携が円滑になり、作業時間が短縮された
Web制作は「共創」のプロセス
Webサイト制作は、単に制作会社に「お任せ」で完成するものではありません。
ヒアリングを通じてお客様と私たちが密接にコミュニケーションを取りながら、一緒に作り上げていくものです。
お客様のビジネスに対する想いを私たちが受け取り、それをWebサイトという形に落とし込むことで、より多くのユーザーに価値を届けることが可能になります。
Webサイトは、企業のビジョンや価値を伝える「最前線のツール」です。
そして、その力を最大限に引き出すためには、制作の初期段階で行うヒアリングが欠かせません。
ヒアリング項目
クライアントと制作会社でWebサイト制作を円滑に進め、クライアントにとってもエンドユーザーにとっても意味のあるWebサイトを作るために以下の11項目のヒアリングを行います。
足並みをそろえ、必要な確認を事前に行うことであとから費用が追加で発生したり、納期が延びて公開日に間に合わずセールスに支障をきたすなどのリスクをお互いに回避することにもつながります。
①基本情報
まずは基本的な情報と、Webサイト制作に関わる人を確認しましょう。
Webサイト制作では様々な人が関わっています。それらをお互いに把握することで確認にかかる時間や納期を決める手掛かりになります。
最終的にそのデザインやシステムで問題ないかなどを決める決裁者や、そのほかに確認をとるべき部署などを先に確認することで流れが円滑になります。
Webサイトが完成したタイミングで決裁者に確認をすると、思ったものと違った場合に「最初からやり直し」が起きる危険性があります。
クライアントだけでなく制作側もほかの案件や業務を行いながらそれぞれのWebサイトを作っています。
お互いの時間とお金を無駄にしないためにも、誰が最終決定権を持つかを確認しておきましょう。
併せてワイヤー、デザイン、テスト公開などどのタイミングで決済者に確認をしてもらうかも決めておくと、担当者も業務の段取りを把握できるためより良いです。
ご担当者様のWebサイトに対するリテラシーや理解度(HTML/CSSなどのコーディングの知識がある。Webサイトがどのような流れで作られて公開されているかすべて理解している。WordPressなどで投稿をしているなど)も確認できると、理解度にあった提案や説明ができるようになります。
認識の齟齬を生まないため、わからないことはお互いに確認しあいましょう。
②クライアントの事業と現状の確認
次にクライアントの事業と現状について把握しましょう。
これらを把握することで商品やサービスの魅力を最大限に伝えられるデザインや構成を提案する材料になります。
また、現在抱えている課題(売上増加、新規顧客獲得など)や、事業の現状を理解することで、これから制作するWebサイトで課題をどう解決できるかや、実現可能な目標を決める材料になります。
既存のサイトがある場合はGoogle Analyticsのデータがあるか確認しましょう。そこからサイトへの流入などの情報を知ることができます。
ロゴの扱い方やブランドイメージなど、慎重に扱うべき要素はトラブルを避けるためにも事前に確認しましょう。
また、クライアントがWebサイト運用に割けるリソースを確認することも重要です。
クライアント側がリソース不足なら、運用しやすいシステム(WordPressで投稿するなど)を導入したり、サポートする範囲を決めることができます。
③サイトの目的と目標
クライアントのことが分かったら、なぜWebサイトを作成するのかという目的と、Webサイトで何を達成したいのかという目標を確認しましょう。
目的や目標が明確でないと、Webサイト制作の方向性がブレてしまいます。
例えば「問い合わせ数を増やしたい」場合、問い合わせフォームの使いやすさや動線の設計が重視されます。このように目的に応じた設計を行うために必要です。
「会社のWebサイトを作ってほしい」という漠然としたものではなく、なぜサイトを作ろうと思ったのかを掘り下げて考えてみましょう。
サイト制作にはクライアントにとって安くはない費用がかかります。その費用を有効に活用するためにも何のためのサイトなのか、そのサイトで何を達成したいのかをしっかりと確認する必要があります。
また、Webサイトの目的と目標はデザインやコンテンツの内容、システムなど制作の様々な面で指標になるため品質の高いサイトを作るためにとても重要です。
④ターゲットユーザーの特定
ターゲットが曖昧だと、誰に向けたサイトなのかが不明確になり以下のようなデメリットが生まれます。
・ECサイトで主要な購入層がシニアなのに、文字が小さすぎて読みにくくなっていた
・観光施設のサイトでアクセス情報を重視する必要があったのに、地図が分かりにくい場所に配置されていた
また、例えば幼稚園のサイトでは入園する子どもではなくその親がWebサイトを訪問します。このようにサービスを利用する人ではなく「そのWebサイトを訪問するターゲット」を確認しましょう。
【ターゲットユーザーが個人】
先ほど例に挙げた幼稚園を探しているユーザーの場合、メイン年齢層は20代後半~30代、性別は女性、職業は会社員、興味関心は保育の内容、ユーザーの課題やニーズは共働きなので預かり保育の有無や時間のように決めていきます。
ネット販売の場合はエリア(住んでいる地域や行動範囲)は重要度が低いですが、幼稚園のように家の近くなど場所が限られた範囲で利用を検討するようなサービスの場合はどこに住んでいるのかは重要になってきます。
【ターゲットユーザーが法人】
年齢や性別の代わりに、規模・業種を確認しましょう。
すでにクライアントの商品やサービスを利用しているユーザーの情報があるとスムーズかつ具体的に決めることができます。
新規に取り込みたいユーザーがいる場合はどのようなユーザーをターゲットにするか決めましょう。
⑤競合サイトの分析
クライアントのことが分かってきたら次は競合について確認しましょう。
競合について知ることは、クライアントの強みや弱みが分かり競合との差別化ポイントを明確になり、自社ならではの価値を打ち出すためにも必要です。
また、競合分析により、どのような要素が効果的かを知ることができます。
⑥サイトの構成・コンテンツ
目標やターゲット、何をアピールするかなどWebサイトで誰に何を伝えたいかが分かったら、それにあったWebサイトの種類や必要なページなどを決めましょう。
ページ数や実装したい機能によって納期や価格も決まっていきます。
どんなページが必要かに関しても同様で、大まかに必要なページを決めた後に細かくどのページに何を書くかを決めておくことであとからデザインが必要なページが発覚したりなどを避けることができます。
ここまでのステップでどんなWebサイトにすべきかは明確になっているはずですので、それを活かしてサイトの構成やコンテンツを決めましょう!
⑦機能要件
Webサイトに必要なページと構成が決まったら、次はどのような機能が必要かと、その要件を確認しましょう。
エンドユーザーがWebサイトを快適に使い満足度が高まることで、Webサイトの目的や目標につなげることができます。
例えばECサイトでカート・決済機能や検索機能が使いづらいと購入に至らずサイトを離脱してしまったり、再度来訪することはなくなったりします。
このように
また、Webサイトに必要な機能が実装可能かや、その機能を使うのにお金がかかるかなども確認が必要になります。
例えば無料で実装できるお問い合わせフォームでも、細かい調整やセキュリティなどは別途料金が必要なものもあります。
実現したい機能のためにどのシステムを使うかだけでなく、どのシステムがWebサイトの目的に向いているか、そのシステムの中でもどの機能が必要なのかといった細かい面も合わせて事前に確認することで、あとから追加で費用が発生したり納期がずれ込むなどのリスクを回避することにつながります。
Webサイトの運用体制に関しては、例えばECサイトでは新しくできた商品を誰がサイトに登録するか、商品の登録頻度はどのくらいかなどを確認します。
知識がある人が登録をするのか、登録するのに時間を割けるかなどによって、使いやすいシステムを選ぶなどの基準にもなりますし、制作側でも使いやすいシステムになるように開発をします。
デザイン面でも、エンドユーザーが使わない画面であれば必要最低限のデザインをおこない、デザインのリソースをエンドユーザーが見る画面に集中して割り振ることができるようになります。
このように、クライアントとエンドユーザーにとって使いやすい機能を選択することでデザインや開発に必要・不要な工数が明確になり、適正なコスト(時間と費用)でWebサイト制作を行えます。
⑧デザインの要望
Webサイトの構成・コンテンツ、機能が決まったらデザインについて確認しましょう。
デザインは好みではなく、これまで確認してきた項目からどんなデザインが向いているのかを考える必要があります。
デザインはWebサイトを見た人にその内容を印象付けたり、情報を見やすくするなどの効果があります。
情報を視覚的にわかりやすく整理することでエンドユーザーがストレスなく情報を収集でき、Webサイトの目標につなげることができます。
とはいえ、どんなデザインがいいのかをこの時点で明確に決めるのはクライアントにとって難しいことです。
ここでは企業や商品のブランドイメージやイメージカラー、何を魅せたいのかといった基礎的な部分を明確にし、そこからこれまでに聞いてきた項目をもとにデザインにつなげていきます。
制作側はデザインの要望をクライアントから聞き取るだけでなく、それがこれまで確認してきたWebサイトの目的や目標に向いているかをすり合わせてブラッシュアップしていきましょう。
参考にしたいWebサイトをクライアントに提示していただいた場合、そのWebサイトの色合いやボタンの配置などがこれから制作するWebサイトの目的や目標には向いていない場合もあります。
デザインの構図(文字や画像の見せ方)を参考にしたいのか、フォントや色合いを参考にしたいのかなど、なぜそれを参考にしようと思ったのかを聞けるとデザインのヒントになります。
⑨素材提供に関する確認
構成やデザインの要望が決まったら次はそれに使う素材について確認しましょう。
必要な素材が揃わないと制作が進行できず、納期がずれてしまいます。
例えば、商品の魅力を伝えるページで画像が未提出の場合、そのページをデザインが決まりきらなかったり、デザインしたはいいものの後から用意された画像に雰囲気が合わずデザインやその確認のし直しなどの原因になります。
制作側が素材を用意する場合、クオリティの確保や追加コスト(納期と費用)の発生について事前に合意していただく必要があります。またその画像やテキストで問題ないかの確認にも時間が必要です。
素材の準備をクライアントと制作側のどちらが担当するのかを決めておかないと、「どちらが責任を持つのか」のトラブルが発生するリスクもあります。
お互いにトラブルを避け、気持ちよくやり取りができるように素材は誰が準備するのか、責任の所在は事前に決めておきましょう。
⑩予算・スケジュール
予算やスケジュールが曖昧だと、制作プロセスに混乱を招きます。
限られたリソースで最大の効果を生むためには、これらを明確にすることが重要です。
⑨で確認した素材の期限も確認しておきましょう。
Webサイトの制作に合わせてSNSの運用を開始することも多くあります。それらの準備をいつまでにしていただけるのかも確認しておきましょう。
また、お知らせ(例:サイトを公開しました)や商品情報などクライアントがWebサイトの公開までに入力するものがある場合は、それをいつ入力していただくのかも公開日までの納期に含められるとベストです。
⑪サイト公開後の運用について
制作するWebサイトについて決まったら、次は公開後の運用について確認していきましょう。
運用体制が整っていないと、サイト公開後に問題が発生します。例えば、更新頻度が低いと、ユーザーが「このサイトは活発ではない」と感じ、離れてしまう可能性があります。
⑦の機能要件でも触れましたが、誰がどれくらいの頻度で更新するかによってそれにあったシステムを導入します。
これにより過剰なシステムを実装してしまい不要なコストがかかったり、更新担当者にとって操作の難しいシステムになってしまうことを回避します。
クライアントがサイトの保守をできない場合は制作側が保守を請け負うことになり、それには長期的なコストがかかります。
誰が何をどこまで管理するかという保守・運用の範囲を明確にすることで、外注する作業と内製化する作業を分け、コストを最適化できます。
分析や改善の体制は、Webサイトをより良くするために大切です。
データをもとに、どの部分が効果的でどこを改善すべきかを把握することで、サイトの魅力や使いやすさを高められます。その結果、クライアントの目標により近づけるサイト運営が可能になります。
おわりに
これら11の項目を確認してサイトの制作は進んでいきます。
そしてこれらをもとに作られたデザインやシステムの動きの確認なども発生します。
Webサイトを制作するにはヒアリングだけでも時間を要しますが、これらを確実に確認しておくことであとから不要なコストが発生するなどの長期的なリスクを回避することにつながります。
ヒアリングは、クライアントと制作側が同じゴールを共有し、効果的なWebサイトを構築するために不可欠なステップです。各項目をしっかりと確認し、制作プロセスをスムーズに進めましょう。